第1章「リズムを定義する」

~見えてきたリズムの正体~

 

人間は感情を言葉や身振りで表現をします。顔の表情や態度は誰に教わるともなく身に付け、自然に表現しています。それらの方法を以って歌い、話し、楽器を試みているわけです。では、人間はなぜ‘動きに対して’感情を読み取ったりリズムを感じとったりできるのでしょうか。

『リズム』という言葉はさまざまな分野で使われ、古今東西いい古された感じを受けますが、いずれも感覚的に使われ、分析されずにきました。これらの問題が不明のままになっている事はとても不思議な気がしますが、そのリズムの問題を正面から取り上げ、学問として扱う〈日本リズム協会〉という組織が発足したことは喜ばしいことです。

音楽は精神状態、経験の違いによってもさまざまに受け取られます。同じくリズムについてもいろいろな見方や考え方があるでしょう。しかしここでは演奏者が、または聴衆がいかに音楽を聴いてリズムを感じ、リズムを表現しているか、そして人間が身に付けている動きに対する感性とは如何なるものなのか、などを分析していきたいと思います。

そして本章ではリズムに関する基本的概念を述べていきます。複雑な要素を持つ音楽表現ですので、分析的に語っていくには、原則論を確認し、それらを共通の認識として持っておく必要があります。そのため基本的概念と原則論をこの1章で語り、その展開は次章以降でいたします。

 

リズムと拍の概念

 

2図)

※上記音符以外に連符、付点音符、休符などがあり、それらのさまざまな組み合わせで各小節が形成されている。

 

最初に『拍子』と『リズム』という概念について説明しておかなければなりません。

本書でいうこれらの意味は「この曲は何拍子だ」というように‘小節内にいくつの音がある’ということでもありませんし、「このリズム形は」のように曲の形態をいおうとしているものでもありません。そしてまたスポーツや生活などで使われるような意味でもありません。ジャズ用語を使えばいかに『リズムに乗る』か、ということです。すなわち以下では4分音符、8分音符などの“音符一つ”に対して、どのように対応したらよいかという、極めて微細な問題を扱います。ただしそれは楽譜上ではなく、あくまで演奏者が出した音に対して、演奏者自身(または聴衆)が聴覚と体でいかに反応し、対処しているか、または対処するべきか、という問題を扱う、ということを強調しておきたいと思います。問題意識はあくまで‘演奏者側からみたリズム’という点にあります。

-------------脚注11------------------

「乗り」詳しくは〈→追旨2-9

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そして本書では小節(拍子)も拍も、また大小の音符一つ一つも、全て定期的で厳格な加速減速を伴った周期運動を内在しているものとし、それらをほぼ同じ概念として扱います。そしてそれは出世魚のブリ、スズキ、ボラのように、表す単位に対しての呼称の違いと思って頂いて結構です。まず拍子と拍と音符の関係を下図で説明いたします。

 

3図)

 

4拍子の基本的な音符の関係として例えると、

大きな輪(1小節)は円周が4m4秒かかって1回転するとします。

中輪(1拍)は大輪が1回転するうち内輪を4回転します。

小輪(16分音符)は中輪が1回転するうちに内輪を4回転します。

-------------脚注12-----------------

 加速減速とは

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すなわち大輪が1回転するうちに小輪は16回転することになります。そしてその大中小3つの(音符や拍、小節)の輪は、さらに大きなフレーズや楽章、曲という壮大な輪の中を回っていることになります。

もちろん音符には連符や符点音符などいろいろな音価があるので、その回転に合わせて周回するわけです。車や玩具などの基本的には)整数で割り切れる大小さまざまな『歯車』と考えても、またループ状のジェットコースターを想像しても、あるいは3進法(3拍子)や4進法(4拍子)のアナログの時計を連想してもよいと思います。

リズムと拍の概略を述べましたが、次に音符‘一つ’の成り立ちを考えてみることにします。

 

 

1節〈打点の重要性〉

 

a.拍の中心はどこに?

序章で行進曲と歩行の問題を述べましたが、それと同じように音楽に踊りはつきものです。「踊りが先か、音楽が先か」はともかくとして、踊りは“出ている音のどこに”“体のどこを”合わせているのでしょうか。例えば

メトロノームで、4分音符を1分間に60回打つ速度は(M.M.60と書きます。以降M.M.省略)4分音符1個で1秒となります。ピアノや打楽器などの打撃音は瞬間的で、聴感上、音の強いところが割合はっきりしているので、‘リズムを感じさせる瞬間’(本書ではリズム核と呼ぶ、後述。)は“打撃音の付近”ということが判ります。管楽器や弦楽器は持続音ですが、ではその1秒鳴り続けるどこの時点にリズムを感じて足や体を合わせているのでしょうか。

またピアノや打楽器のリズムを感じさせる瞬間を音の強い打撃音の付近、といいましたが、“打撃音の付近”の何処に体を合わせているのか、という問題が生じます。

1秒という時間は120の時には16分音符が8つも入ってしまう、音楽ではとても長い時間です。そのためそれらを正確に定義する必要があるのです。これよりピアノ、打楽器をも含めて音楽のリズムを感じさせる音符のリズム核”“打合(だごう)〈以下参照〉を語っていくことになります。

 

※打点、点前、点後の用語は斎藤秀雄氏の指揮法教程でいうところの意味とほぼ同じです。そして頻繁に出てくる用語は慣用的に用いられていることが多いため改めて整理しておきたいと思います。

 

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指揮法でいう、打点、点前、点後

加速減速をともなった腕の上下運動においてボールが床を叩いたごとくの運動を「叩き」と呼んでいる。その叩いた瞬間の時刻を打点と呼んでいるが、この運動をブランコのように腕を横の運動におきかえたものを‘しゃくい’と呼んでいる。‘叩き’‘しゃくい’いずれも打点を示す前の運動を点前、打点を示した後を点後と呼んでいる。

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指揮者は演奏の手段は持っていませんし、指揮法は演奏用語ではなく、演奏を指揮するための腕の運動を規定しています。そして『打点』は指揮法で1拍を指示する腕の運動の意味で使われています。そのため演奏を分析するには音と運動を別々に扱う必要があります。また理論展開上、演奏を視覚的に説明するための手立ても必要となります。さらに本論では音符1個の成り立ちについて考えていかなければなりません。そのため本書では体の運動のみの場合には打点。音について視覚的、感覚的意味が強い場合にはリズム核という用語を使って区別することにします。そして本書でいうところの意味は

 

=====定義=====

打点=加速減速をともなった体の上下運動においてボールが床を叩いたごとく、あたかも自然に打点を示せる運動をいう。(指揮法でいう腕の運動が体に置き変わったものである。)正確な打点の定義は〈3-b=踊りと指揮〉で述べる。方法は後述。

リズム核=音楽を聴くとリズムを感じさせます。音1個ではリズムは成り立ちませんが、1個の音をそれぞれ取り出してみたときに、各音の何処かに音が成熟し、音として認識される時刻、すなわちリズム刺激を感じさせてくれる点が音の中にあるはずです。それをリズム核と呼ぶことにします。

※この用語はリズムを分析するための便宜上の用語で曖昧ですが、それを探り、楽器演奏とはどういう事かを説明していくことが本書の一つのねらいでもあります。

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4図)

 

点前=リズム核より前。音を出すために準備され、リズム核に向かうための腹の溜(→後述)、無声音、子音を含めたリズム核を出すための予測的音の流れ、または周期的音の流れの中において点後以降、リズム核に到達する以前をいう。〈→7,8図〉体の運動においては指揮法と同じ。

 

----------脚注13-------------

ビートと呼ぶ言葉が近いかもしれないが〜

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点後リズム核より後のことである。指揮法では腕の上下を1拍で表わすが、演奏においては2分音符、全音符または数小節タイでつながった音符などがあり、それらを拍で分割することも、またそれらつながった音符全拍を1拍と規定してしまうことにもいずれも困難を伴う。そのため点後とは便宜上、次の音符の(新たな音が認識される)点前以前までする。

 

----------脚注14-------------

2章以降で述べる‘日本人のリズム処理に〜

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リズム=一般に用いられる意味に同じ。(複数の音符の音形、または拍子の形態をいう。)

=一般に用いられる意味に同じ。(小節を構成する基準となる音符の長さの一単位。)

この後使われる用語はその都度定義していきたいと思います。

 

b.会話の速度

 

音楽では細かな音符にも対応しなければなりませんが、ここで視点を変えて、われわれのもっと身近な問題として取り上げてみることにします。

アナウンサーは1分間に約350字、又は1000字を3分のスピードで喋ることを目標にしているということです。その速度は普段の私たちの会話の速度ではなく、むしろ落ち着いた速度です。それでも1秒に換算すると5.8文字を喋ることになります。それは本書を1分間に約12行弱のスピードで読むということになります。しかし文章には漢字が混じっていますからこの換算は正確ではありません。(因みに“音楽”という言葉は2文字4音) すると通常の会話では1秒間に8音近いスピードで喋ることになるでしょう。それを音符で表わすと

 

5図)

 

1秒間8音を平均した速度で喋るとすると、1音は0.125秒というたいへん短い時間になります。つまり私たち0.125秒の連続音の発音を、感情も含めて間違いなく聞き取り、会話をしているという、驚くべき能力を自覚することなく発揮しているわけです。

そして中には、機関銃のような早口の人もいます。早口で有名な某アナウンサーは1分間700文字くらいの時もあるそうです。もちろん漢字混じりの文章ですから、800音以上のスピードはあるでしょう。しかし間違いなく聞き取れます。するとその1音は半分の0.0625秒となります。音楽でもそのくらいの音符は出てきますが、しかしこの細かな数字でも1音の中心ではなく、音から音への通過時間を示しているにすぎません。

では話しをリズムに戻しましょう。1音数秒でも、0.125秒でも0.0625秒でも構いません。これらの通過音のどこの点をとらえて私たちはリズム刺激を感じさせる点『リズム核』、ととらえているのでしょうか。述べてきたように、私たちのリズムのとらえ方は「3拍子だから3つの拍がある。」「3拍子だから強拍は第1拍にある。」または「16分音符4つで1拍だ。」くらいにしか通常考えていません。しかし私たち演奏に携わる者たちは決められた1拍の中へ相当な数の音符を入れなければなりません。4つも6つも8つも、場合によったら16のこともあります。

音楽は感情豊かな繊細な芸術です。その繊細さを誰でも正確に表現できるよう、また体得させられるようにするためには音楽の根幹を分析する必要があります。この事実を明らかにすることこそ音楽での最優先課題ではないかと考えます。

 

c.二人三脚のタイミング

 

リズム、打点、リズム核を定義することがいかに大切かということを判りやすくいえば、1人で走るより23脚、34脚、56脚と人数が増えるにしたがって、次第にそのタイミングも難しくなってきます。このタイミングも大勢で上手に走ろうと思ったら、1/100秒近くの正確さが必要になるかもしれません。その中の1人でも走るタイミングを狂わした場合には、全員がチグハグになって転ぶきっかけを作ってしまいます。音楽もこれと全く同じことになります。

音楽では1人でやるソロから100200人という大編成の場合も出てきます。音楽の難しさはこの23脚とは違い、11人が1拍、または1小節、あるいは拍という一定の時間の中で、それぞれ違った楽譜(一つの法則に則りながら各人異なった音形)を演奏していることです。その中にはお互いの関係が整数で割り切れなかったり、合わせられる音符がしばらく出てこなかったりもします。音を出すだけでもたいへんなのに、他の演奏者のリズムや音の流れを聞きながら、自分の役割を忠実に果たさなければなりません。

アンサンブルを二人三脚にたとえましたが、前述の演奏しながら行進する時、また自分一人の練習や演奏においてさえも、リズムの乗り方(感じ方)が悪かったり間違ってとらえていた場合には、楽譜上のあるべきリズムと実際に発音された音のずれのために、潜在意識の中で葛藤をおこし、重大な疾患を招くことになります。『演奏』と呼ばれる音楽の再現に携わる人たちにとって「よい音云々」「音楽性云々」を語る前に、その細部がどうなっていてどう対処すべきかということを、先ず考えるべきでしょう。〈音と時間の関係は追旨2-3に解説〉

正確な『リズム』とタイミングがいかに大切なことであるか、ということを理解して頂けたと思いますが、私のこれまでの経験、研究によれば“日本人には特にリズムの曖昧な処理が頻発する”ように見受けられます。

 

 

2節〈実際の拍と数え方の拍の違い〉

 

~体とリズムの関係~

 

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本書で以降述べる音楽における子音、母音、無声音のこれらの定義は言語学でいう意味とほぼ同じである。

(以下講談社、日本語大事典)

子音=母音以外の音の総称。発音の時、舌、歯、唇、口蓋、喉頭などで、閉鎖や狭めなどの方法で呼気をさえぎって発する音。

母音=声帯を経た気流を口腔や咽頭で妨げることなく発する音。(aiueo、また子音と結合する)

無声音=声帯の振動を伴わない音声。(主として子音の ptksfh

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次の定義はほぼ言葉でいう意味を連想しても差し支えありませんが、音楽と言語の関係を論ずる際に使用するため、不明瞭になる恐れがあるので用語を明記しておきます。

 

======定 義======

 

子音=発音体が完全な振動を起こす前の雑音。あるいは(TuまたはDuと発音される)タンギング(舌つき)もしくはタンギング時に発生する雑音。

母音=(言語でいう意味とほぼ同じと解釈してよい。)完全な振動を起こした時刻以降の音。リズム核以降、点後の音を含む。

無声音=音を発するために流れる息。もしくは発音体が完全な振動を起こす前の不効率(下記)な空気の流れ。息をさえぎらない子音、日本語でいう「ハ行、サ行」などの子音の発音がそれにあたる。

発音=発音するための準備(腹の溜(ため))と音の立上りから子音を含めた、母音以前の総称をいう。(点後は含まない。)

腹の溜=発音する(打合させる)ために準備する腹にかかる一定の予備的力。慎重に話す時、内緒話しなどの時が典型的な腹の溜である。

 

======定 義 ======

本書で使われる『濃い、薄い、音の濃淡』『音声の変換率』『(息、音の)効率』について定義しておきます。

息の効率、音の効率』=一定の息の量に対して発せられる音量の割合をいいます。例えば柔らかい声、内緒話し、ハスキーな声、赤ちゃんに語りかけるような声は息混じりで発音効率の悪い声です。それに対応する楽器演奏法、すなわち金管楽器ではハーフトーン、またクラリネット、サックスではサブトーンと呼ばれる奏法を『柔らかい音』と呼び、『(の密度)薄い』と呼びます。

その反対は威嚇するような声、喉をつめたような声、締め付けられたような声の発声法を指すが、それらに対応する楽器演奏法を音が濃い』『濃厚な音』と呼びます。またその息と音の関係を『音声の変換率』と呼びます。さらに音と息の割合をいうときに『(音の)濃淡』といい表します。

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拍の転換点

音の出し方、対処の仕方、リズム核はどうであるべきか、これらを詳しく覗いていくと意外な事実がみえてきます。

私たちは拍を数えるとき、4拍子だと“1234拍”と数えています。そこで「1拍目は何処から何処までですか」と聞くとします。大概の人は、楽譜を見て「ここの1つ目の4分音符から2つ目の4分音符までだよ」と答えます。少し具体的に答えてもらうと、手拍子を打ち、「ここの音の鳴った時から……次の音が鳴る手前までだよ……。」と、次の音が鳴る一瞬前に手を引っ込める動作をします。それを具体的に楽器で音を出して説明しようとすると、もう少したいへんです。「今の鳴り始めの音から……ここまで」。ここまでというのは次の音が鳴り出す一瞬前(鳴ってはいけない。)を指していいます。

手拍子でも笛でも、実際にやってみれば判りますが、寸前で止めること、いわゆる空手でいう『寸止め』ですが、“手前で止める”その意識が働いて、力みと減速が伴ってしまいます。(それは空手でいう寸止めと同じで、空手では相手を打つことが目的であるため、寸止めでは打点直前で止めていることになるはずです。)手拍子だと、そこには手と手の間にまだ空間も残されていることにもなります。さらにそれらの考えでは発音に必要な立ち上がりの時間と、それに先立つ音を立ち上げるための準備の時間を全く考慮していない、ということになりますので、そのような説明は極めて不自然なのです。

掛け声、または‘気合い’などを考えてみれば判りますが、打点めがけて音を発しているのです。つまり、われわれがある時刻目指して音を出した時には、目指した時刻より手前から音は鳴り始めています

より具体的には、例えば声なら吸気から呼気に移ろうとする、その境目あたりが拍の始まりであり、そして手拍子の場合には、叩くために体から遠ざかった手が、内側の運動へと移行する(力を入れ始めた)あたりが拍の始まりです。(打鍵楽器も同じ理屈になる。)

五線上に書かれている音符は“最も音の強い時刻”(エネルギーが効率的に働いた時点)を示しているにすぎません。普段の呼吸で手拍子をとりながらゆっくり「いーち」「にー」と数えてみてください。そして手拍子が鳴ったとき、発した声がどの辺りにあるか確認してみてください。おそらく言葉を伸ばしている「ー」あたりで手拍子が鳴っていることを確認できるでしょう。また「はー」「Haaaaa…」という発音で実験する場合にも“H”の子音にはなく、いずれかの“a”にあることが判ります。すなわち発した声に対して、手拍子を打った時刻がリズム核を示し、無声音や子音はリズム核より前に出ていることが判ります。

 

6図)

 

このように表現すると、あたかも「拍の前から拍が始まる」のごとく感じる読者がいるかもしれません。この混乱は通常われわれが1拍目、2拍目と音符を数える時に用いる「拍」の概念と、音楽の周期性を考慮した本書における「拍」の概念とが、異なっているということを意味しています。すなわち、前者における拍の数え方を

 

とすれば本書での拍の定義では

 

という具合になり、1,2という数字に対応する時刻は‘リズム核’と呼ばれるものになります。以下では前者を数え方の拍、後者を実際の拍と定義し、以降そのように呼ぶことにします。

※上図では数字上をリズム核とすると、数字を数えるためにはリズム核より手前から声を発していることを示している。数字を数えるときの言葉の子音がずれていることに着目して頂きたい。この問題は43節で別の角度からまた詳しく述べますので、ここではリズムに対応するためには音符位置より手前から発音を始めている、という事を理解頂ければ結構です。

 

7図)

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*妙薬6=音楽性はリズムの表現

音楽の最も大切な感情表現の一つである

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*妙薬7=楽器のコントロールとは!

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自分がどのくらいリズムを〜

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-----------------脚注15--------------

武道は人間のリズム(心理)を〜

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3節〈リズムの発生〉

 

リズムには加速減速運動が伴っていなければ、リズムを感じることも発生することも困難でしょう。例えば今流行のループ状のジェットコースターを、あるいは山の手線の東京を下にして線路を地上に縦て、そこへ山の手線を走らせることを想像してください。頂点の池袋付近から出発して最下点の東京に向かって猛スピードで突進し、東京を最高速で通過した後、再び池袋に向かって減速するものとします。(横から見ると指揮法でいう‘叩き’の運動になる。)

 

8図)

 

この周期運動を指揮法にみたて、1周で1拍分を表わしているものとすれば、平均的な拍の転換点はおよそ池袋周辺にあります。

すなわち周期的加速減速運動において、物体の運動が減速から加速に変化する(認識できる)点が拍の開始点であり、最もスピードが大きくなった点が『打点ということになります。〈→妙薬303134

 

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補説5西洋音楽のリズムは〜

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補説6強い音は立ち上がりが〜

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そして演奏のリズムの基準としてメトロノームが使われますが、そのメトロノームが鳴る音をめがけて演奏者は楽音を合わせています。さらにメトロノームの音がなく、動きだけでもリズムを感じることができます。そしてピンポン玉が跳ねるのを見ても、先の円運動を見ても、またわれわれが飛び跳ねてもリズムを表現することができます。しかし等速度運動などの往復運動においては、はっきりとしたリズムを感じることは困難です。しっかりしたリズムは加速減速運動の速度の差が激しいほど、また周期が短いほど感じられるものです。そして物体として見ると、運動の方向(や性質)が変わる時点に感じられます。

人間のリズム運動、または自分の体の運動に対してリズムを感じる時点は重量感が感じられる点、という事ができるでしょう。(もし体重計に乗って運動を行った場合には体重計に最も体重(重力)がかかった瞬間ということができます。)

 

メトロノーム図➡

踊りは通常音楽に合わせて体を動かしています。したがって踊り手は鳴っている音楽の周期的なリズムの中の ‘最も音の強いところ’(リズム核)を予測し、各拍のリズム核で最も体重がかかるように運動を設計し組み立てているはずです。そしてその運動(を受け止めているところ)の重心点当然‘’ということになります。このことは音楽を演奏しているプレーヤー本人にも当然当てはまるはずです。そして踊りだけではなく、冒頭で述べた演奏に合わせて行進すること、さらにまた演奏と行進の関係も同じ事がいえます。すなわちリズム核と体重が(腰に)かかる時刻とが一致したときに理想的なリズムが、あるいは最も効率よく強いリズムが発生するはずです。つまりそれが演奏におけるリズムを表わすことのできる正確な「タイミング」ということになります。

このリズム核と打点、両者の点が重なり合っている状況を、音をヒット(hit=的中)させるという意味合いから打合(だごう)と呼ぶことにします。またその状況により単に打合、または『打合させる』、『打合する』と呼ぶことにします。そしてこの体の運動を打つ『体を打つ』と呼ぶことにします。つまり音楽の表現は‘打合させられる’ことが重要な要素であるとともに、それが本論展開の上で核となる問題でもあります。以降論理展開をしながらそれを含め眺めていくことになります。

 

.踊りと指揮

 

リズミカルな曲での演奏者の体の動きは、踊りと同じ使い方になっていることはジャズやロックにみられますが、これに限らず演奏と体の動きは一体を成すものです。そして音楽を体の動きで伝える‘指揮者’とは、あるべき音楽を踊りで演奏者に伝達するダンサーであるとみなすことができます。

演奏者は、指揮者の運動やメトロノームなどの周期運動に演奏を合わせることができるわけですが、演奏者は打点の指示だけを受けているわけではありません。まずそれらの周期運動に対して自分の体の動きを対応させることから始めているはずです。

したがって両者が介在したその運動から出る音には点前、打合点(運動は打点)、点後などの細かい表情の情報が全て含まれています

 

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補説7ソロ等、一人の〜

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一方人間が持っている動きを見極める感覚は、演奏者が細かな音符に対応できるごとくに、微細な動きや、速い動きを見極める鋭い感覚を持ち合わせています。

指揮者はその精度をもって、体の動きと表情で楽員に示しますが、演奏者は音と体の動きをもって、すなわち‘乗り’〈→追旨2-9〉から表現される多彩な音色で演奏仲間と鑑賞者に、その情報を伝えています。音楽は経験に基づき、音楽的想像を肉体労働を経て‘音’という現象に直接置き換えている現象です。そのため、その経験やリズム処理などの方法の良し悪しが演奏を左右することになります。演奏者の正確なリズム処理を伴った音楽表現(乗り)からは、微細な揺らぎなど、素直で簡潔な表情が伝えられるはずです。本書はその良し悪しや基本的方法を追及しているわけです。

 

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補説8二人三脚で述べた〜

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*妙薬8=演奏相手は自分の鏡

人間は、動きや音の〜

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b【リズムの原則】

 

演奏する際のリズムの正確な取り方。原則的には

1楽譜上の(あるべき)音符の時刻(各拍のリズム核)に

2演奏中の演奏者の体の律動(動き)において体重の最もかかる時刻と、(原則的には上下運動においての打点。)

3・発音した時(音が移行した際)の音量が最大となる時刻(リズム核)が一致するような取り方です。

すなわち体と音と音楽のリズムのタイミング』を一致させることが楽器演奏におけるリズムの大原則であるということをここで定義しておきます。

そして前述の「実際の拍」の正確な発音のタイミングと事実上の処理は、この三者の運動が一致したときに生まれることになります。すなわちこの状況が正確な‘打合’になるわけです。〈→43節=発音特性とリズムの関係〉〈→61節=演奏に階層構造があった!〉

--------------脚注16---------------

楽譜を見て表現しようとする想像上(予測上)のリズムのタイミング。

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*妙薬9=リズムの取り方の原点

アンサンブルでは相手の〜

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拍子、リズム、拍の内部構造と発音に関して、演奏者はいかにあるべきかという基本的な概念と原則論を述べてきました。そして日本人には曖昧なリズムが頻発し、リズムの感じ方も異なっているということも一部指摘しました。以後西洋音楽に対する私たちの姿勢や問題点を章を重ねる度に次第に広げながら観察し、分析していくことになります。

この問題点を正しく認識し、矯正できさえすれば正しい楽器演奏法が身に付けられることになりますが、本書最大の目的は、その理論を提示し、その方法を提案することにあります。しかしその分析はきわめて多義にわたります。そのため論点や視点が曖昧になることは不可避かもしれません。そこで本書の問題点が何にかかわっているかを明確にさせることが必要ですので、次章に入る前、ここで私が述べる「音楽の現象」に一つの構造を提示し、分類を試みることにします。

 

以下の表のように時間的に短い音から、音楽として成り立った長い楽章までを四つに分類しました。本書では主に《発音とリズム》を扱っていますが、それを下表に分類すると、リズムの問題は‘第二次構造’。そして細部の発音や打合点の分析をしてきました。それは‘第一次構造’を定義してきたわけです。

そして序論で述べた〈音感〉は音楽で使われる感覚全てをいい表しているので全構造に関係していますが、固定、移動音感という感覚は単音に対しての感覚ですから‘低次構造’をいっていることになります。〈骨振動〉は直接響きと発音に関係しますが、全構造にも影響を及ぼします。〈運動能力〉そして〈肺活量と積極性〉の表面的な問題は‘高次構造’にあります。

そして本論では‘低次構造’を解明するために‘高次構造’の影響も考えなければなりません。そのために高次構造に分類されるべき問題も多く扱うことになります。以下に構造の区分と分類、そして本書で扱う項目の一部を目安として記載しました。

 

{構造表}

 

 

 

 

 

低次構

 

 

第一次構造

概念的には一音をいうが、

1.   発音a.点前、b.リズム核(打合点)c.点後)

2.   発音体(各楽器の振動帯をいう)に分割する

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本書では主に一音の発音のタイミングと方法をいうが、その方法がいかにあるべきか検証する。

 

1章リズムの定義/2章2節=奇怪な現象/2章3節=日本人の会話の習慣/4章3節=発音特性とリズムの関係/歩く事/スタッカート/母音処理/踊り/認知/解決方法/才能の関係⋯など。

 

第二次構造

リズム=複数の音符の時間的音型。

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リズムがいかにあるべきかを論じる。

1章リズムの定義/2章3節=日本人の会話の習慣/4章3節=発音特性とリズムの関係/単語のリズム/踊り/才能の関係⋯など。

 

 

 

高次構造

 

第三次構造

フレーズ=簡潔な感情を表している小さな音の集まりの一単位をいう。

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本書では性格や言葉が音楽にいかに関わっているか検証していく。

 

 

文法構造/4章1.2=

演奏における日本人特有のリズム処理⋯など。

 

第四次構造

フレーズの集まりである曲を構成するための最小の一終止形をいう。

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日本人的感性で推し量る西洋音楽を検証する。

 

3章=日本文化から見た感情表現/個人の性格、積極性/音楽の判断基準⋯など。

 

-------------脚注11------------------

「乗り」詳しくは〈→追旨2-9=リズムに乗る「乗り」について〉参照。

 

 

 

 

 

 

----------脚注12-----------------

 加速減速とは一定の周期運動の中での音の質感の変化、すなわち息の流量がもたらすスピード感、音量の変化、または一定時間枠の中で起こる微細な速度の変化など。(時間的に厳格と述べたことと多少矛盾する。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

----------脚注13-------------

ビートと呼ぶ言葉が近いかもしれないが、さまざまな使われ方をして不明確であるためあえて避けた。

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----------脚注14-------------

2章以降で述べる‘日本人のリズム処理に関する問題’‘母音処理の問題’は、点後処理に近い問題だということをここで先に認識頂きたいと思います。

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とすれば本著での拍の定義では

   ⬇

 

 

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*妙薬6=音楽性はリズムの表現

音楽の最も大切な感情表現の一つである抑揚は、リズム移行(拍子の取り方)などリズムの感じ方にあるといっても過言ではないでしょう。『リズムをニュァンスとして出せることが音楽性だ』ともいい変えられると思います。しかしリズム移行ができるためには、正確なリズムを基準として持ち(表現でき)、それを自在にコントロールできることが必要であることはいうまでもありません。これによって、初めてリズム移行が聞き手に認識されることになります。〈→追旨2-9=乗り〉

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*妙薬7=楽器のコントロールとは!

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自分がどのくらいリズムをコントロールできるのかを実験する方法として、120くらいのテンポで8分音符、16分音符を演奏しながら任意のところにアクセントが付けられるかをチェックしてみることを勧めます。大抵の人はアクセントを引きずって、実際にはアクセントの音ではなく、次の音が大きくなってしまうこが多いものです。

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-----------------脚注15--------------

武道は人間のリズム(心理)を逆手にとり、そのリズムをはずし、裏をかくことだといえるでしょう。また不慮の事故は無防備な時に発生するものです。音楽でもそれらの心理を巧みに利用しています。

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補説5西洋音楽のリズムはたいへん周期性が強く躍動感があります。それは上下の回転運動や、ブランコ、振り子の運動のリズムのようなものです。私たちがよく使う掛け声「セーノ」「いち、にの、さん」においても同様に、大きな表現を期待するほど、腹に力の溜を加えて強く発音します。力強い1拍目に向かおうとするには、その予備運動(前拍の点後の運動)も当然大きくなります。そのため第1拍目の前の拍(またはアウフタクト)、終拍は他の拍に比べて長くなるだろうことが推察できます。

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アウフタクト、引っかけともいう。=弱拍、アップビート。

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補説6強い音は立ち上がりが急なために強く聞こえ(リズム核に近いところから発音)、優しい音は柔らかな立ち上がりになるわけです(リズム核から遠い)。表そうとする感情によってさまざまな立ち上がりがあるので、拍の転換点は当然一定していないでしょう。それが音楽にとって大切な感情表現となっているはずです。〈→4章序節=言葉の心理と音楽の心理の共通性〉 そのためリズム核からリズム核までの時間はあまり変わらず、音の継目(転換点)が移動しているということになります。感情が激しく揺れ動くほど1音符の長さは違っていることになりますが、人間はそれを自然だと受け止めているようです。(西洋音楽の音符の長さ(音価)に対する習慣は割愛、→43節及び補説24に関連記事。)

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補説7ソロ等、一人の練習においては運動や感情を指示(制御)する人はなく、時間的客観性を保つためにメトロノームという道具が使われるわけです。そして当然、運動にも客観性がなくなります。しかし経験や訓練によって一定のテンポを保つことがある程度可能になりますが、基本的には呼吸による時間的感覚や、音にリズムを感じる体感上の感覚が何よりも重要です。

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補説8二人三脚で述べたようにアンサンブルにおいては複数で演奏するため、個人が勝手気まま(不正確)に体を動かしてしまっては共通のリズムや感情が生まれません。もし、共通のリズムや感情を作りたければリズムに関する法則が必要になります。腰(腹)で正しくリズムを感じている限り、音楽の流れを壊すような急旋回、いきなり速くなったり遅くなったりする無秩序なリズムにはならないものです。〈→4章序節=言葉の心理と音楽の心理の共通性〉

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*妙薬8=演奏相手は自分の鏡

人間は、動きや音の流れを巧みに受け取れる感性があるわけです。演奏相手が自分の演奏表現につけられなければ、自分を疑ってみる必要もあるでしょう。

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*妙薬9=リズムの取り方の原点

アンサンブルでは相手の演奏に合わせなければなりません。したがって演奏相手やメトロノーム等のリズム核を予想し、その対象にさらに‘打合’させることが必要になります

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